食品製造において、食中毒菌に関する知識はとても重要です。
食中毒による事故を防ぐためには、製造責任者はもちろんのこと、製造従事者も正しい知識を身に付けておかなければなりません。
ここでは、知っておかないといけない食中毒菌の1つである、ボツリヌス菌の特徴や予防法についてご説明します。
ボツリヌス菌の特徴
ボツリヌス菌は、偏性嫌気性桿菌 1に分類され、酸素のない環境で活発に生育する菌です。
また、「芽胞」と呼ばれる細胞構造を形成します。
芽胞は細菌が増殖に適さない環境で形成され、耐熱性や耐酸性があることが特徴です。
この芽胞は、酸素のない環境で発芽し、食品内で増え、増えた菌が強い毒素を作り出します。
そのため、ボツリヌス菌による食中毒の予防には、菌と芽胞の両方を殺菌しなければなりません。
ボツリヌス菌は、土壌・河川・海洋など自然界のあらゆるところに生息しています。
また、ボツリヌス菌の毒素は、自然界で最強の毒と呼ばれるほど強力な毒です。
常に食品を汚染する危険性があるため、適切な殺菌を行いましょう。
参考著書
公益社団法人日本食品衛生協会「食品取扱者・調理従事者必携 衛生管理ガイドブック」2018年3月12日発行
東京教学社「食品の安全性〈第3版〉」2016年4月発行
ボツリヌス症の種類と症状
【ボツリヌス症】
ボツリヌス毒素を食品とともに摂取することにより発症します。
ボツリヌス菌の潜伏期間は、8〜36時間です。
食中毒の症状には、脱力感、倦怠感、頭痛、めまい、呼吸困難などがあります。
神経系に影響を及ぼすため致死率が高く、適切かつ早めに処置をしなければ死亡する割合が高くなります。
【乳児ボツリヌス症】
1歳未満の乳児がはちみつを摂取することにより発症するボツリヌス菌による食中毒です。
乳児の消化管内に、芽胞が住みつき、毒素を発生させることにより起こります。
乳児のボツリヌス菌潜伏期間は3〜30日で、成人よりも長引くことが特徴です。
食中毒の症状には、便秘や筋力低下、脱力状態、哺乳力の低下などがあります。
また、消化管疾患に関連して腸内がボツリヌス菌が生息しやすい環境になっている場合に起こる「成人腸管定着ボツリヌス症」や、傷口にボツリヌス菌が生育する「創傷ボツリヌス症」を引き起こす危険性もあるため、食品を製造する際には殺菌を徹底しなければなりません。
厚生労働省HP「ボツリヌス症」はこちらをご覧ください。
原因食品と予防法
【原因食品】
・食肉、魚肉、野菜類を材料とした発酵食品
・自家製瓶詰
・真空包装食品
・はちみつ等の低酸素状態で密封された食品
【予防方法】
食中毒の原因となりうる食品でも、予防次第で安全に食べられる食品となります。
では、どのような予防策をとればよいのでしょうか。
・食材の洗浄
ボツリヌス菌による食中毒の原因には、食品の洗浄が不十分であることがあげられます。
ボツリヌス菌は自然界に広く存在するため、使用する原材料をきちんと洗浄することで予防ができます。
もちろん、洗浄のみですべての菌を除去することは不可能ですが、できるだけ菌を除去することが重要です。
・食品の加熱処理が不十分
ボツリヌス毒素は、80℃20分間あるいは100℃2分間の加熱処理で失活します。
しかし、ボツリヌス菌の芽胞はこの条件では死滅しません。
ボツリヌス菌の芽胞を死滅させるには、中心温度120℃4分以上または、これと同等の殺菌効力のある方法で加熱しましょう。
・はちみつ使用に関する表記
1歳未満の乳児がはちみつを摂取してしまうと、乳児ボツリヌス症を引き起こす可能性があります。
そのため、食品の製造サイドから乳児ボツリヌス症の予防としてできることは、はちみつを使用している旨を表記することです。
食品表示法では任意表示となっていますが、注意喚起として「1歳未満の乳児に与えないでください」と記載し、食中毒防止に努めましょう。
参考著書
東京教学社「食品の安全性〈第3版〉」2016年4月発行
缶詰とボツリヌス菌
ボツリヌス菌の原因食品には缶詰も含まれます。
缶詰は製造過程で脱気・密封を行うため、嫌気性下で活発に生息するボツリヌス菌の生育に好都合となります。
これから缶詰製造にチャレンジしてみたい方は、特にボツリヌス菌には注意してください。
【製造した商品で食中毒が発生してしまったら】
該当商品の製造停止・回収を行います。
商品の回収は、お近くの保健所にご相談ください。
いかがでしたでしょうか。
ボツリヌス菌を含め、食中毒菌は人体に悪影響を及ぼす非常に厄介な細菌ですが、適切な殺菌方法により食中毒を防ぐことができます。
安心、安全な食品を製造するためにも、正しい知識を身に付けましょう。